羽生やしおじさん
前を歩いているおじさんの頭に、鳥の羽がついていた。
……なんで?
もしかして戯れたんか、鳥と。やはり……
パッとみ白髪かな、でっかい白髪だなと思ったんだけど、よくみると違う。なんかふわふわしている。
駅の階段を登る途中に気づいたので、びっくりして足を踏み外しそうになった。
こういう本人は全く気づいていないけど、教えてあげたほうがいいのか悩む問題ってたまにある。もしかしたらおじさんはおしゃれのつもりで羽をつけているのかもしれないし。
それに、自分もただ気づいていないだけで同じ状況だったら、指摘したときにすごい恥ずかしい。頭が羽まみれの人が、他の人に「ふふ、羽ついてますよ」なんて言ってたら、後世の恥だ。同じ穴のムジナ、大海を知らず……ってワケ。
でもそれで指摘してあげずに、そのまま家まで帰ったらおじさんは一生の恥だろう。家に帰って家族にも気づかれず、風呂場で鏡に写った頭の羽に気づく。ああなんでここに羽が、恥ずかしい……。
誰が気づいたか知らないし、気づいてても覚えていないだろうけど、本人だけが一生気にする恥ずかしい記憶。
俺がその指摘をしてあげられなかったばっかりに、おじさんの心に深い傷をつけてしまうのかもしれない。そうなるくらいなら、しっかりと教えてあげたいな。
そういう人間になりたい
そのぉ、ふふ……ついちゃってますよ、頭に羽が……うふふ。